あの日。
忙しく不満だらけの仕事を終えて帰宅していた、いつもの日常と変わらないあの日。
最寄り駅の階段を下りて、いつもの帰路を歩いて帰ろうと一歩を踏み出した時にそれは起こりました。
25年前、
『この人の近くにいたら幸せになれない』
と思って、連絡先もそれまでの想い出もすべて捨てた男性の顔が超鮮明に出てきたのです。
ずっと考えていたのならまだ理解ができます。
この25年間、一切の感情を捨て、想い出す事などしたことがなかったのに急に・・・。
その彼の顔がパッと靄一つなく出てきました。
あまりに突然、鮮明に表れたのでギャッと、歩く足に急ブレーキをかけるようにその場に立ち尽くす程でした。
その人は何かを私に言っているようでしたが、あまりに突然だったので、何だったのか記憶が薄いです。
ただ、何となく以前のように私の名前を呼んだような感覚は微かに残っています。
その瞬間、目からダっと涙が溢れてきたので、駅前の人混みから逃げるように走ったことを覚えています。
現実は出逢っていないのに、リアルに出会ったかのような鮮明ぶりでした。
過去のケンカばかりしていた頃とは違い、とても穏やかな顔でした。
偶然ですが、私の名前の漢字と彼の名前の漢字は同じです。
私たちは読み方が違いますが、同じ読み方をする人も多くいます。
『名前の漢字が同じだね^^』
そんな会話が初めて出逢った時の会話です。
こんな記憶を蘇らせるような、あの時のポジティブな発声で名前を呼ばれたような感覚が、“あの日”に聞こえたように記憶しています。
混乱の方が大きかったので、記憶が正しいかはわかりませんけどね・・・。
目の前にパッと彼が現われ、そこから私の感覚はすべて変わってしまいました。
私、ここで何やっているんだろう。
どうして別の人(夫)と生活しているのだろう。
私、何やっているんだろう・・・。
夫との結婚生活を『しあわせだったか?』と問われると即答できません。
たくさんの試練が起こり過ぎて、いつも私は必死に試練に向き合ってきたからです。
身体も壊し、心身共にボロボロでした。
それでも一生添い遂げるつもりでしたから、あの日の瞬間まで夫との人生をどうしたら快適なものになるだろうか・・・を常に考えていました。
子供が一人おり、この子の父と母としてはベストパートナーだと思います。
そして子供と巡り合えた事は心からしあわせだと思っています。
だからこそ、25年前にすべてを捨てた彼のことはもう“終わった”としか考えていませんでした。
だから驚いたのです。
でももう、すべての感覚が元に戻れません。
彼への思いも、夫への思いも、家庭への思いも、自分の将来の思いも、すべての価値観も・・・・。
年が明けたら成人する息子。
私の使命は一つ終わったよ。次の使命に向かって。
という声が聞こえたのは、あの日を迎えた後のことです。